星の王子さま。読む人の心を、あっちへ連れて行ったり、こっちへ連れて来たり。
何を感じればいいのか、はっきりとわからないまま、王子さまといっしょに、渡り鳥に乗って、旅に出る。
物語が終わりを迎え、ふと自分自身をふり返ってみると、揺さぶられた心が不思議と整頓されていたことに気づく。
弾かれた弦が、静かに元の場所に戻っていくように。
そして、ああ、自分の心は、こんなにもきれいになることができたんだ、と思う。
本アルバムは、そんな「星の王子さま」の読書体験を、美しい音楽で味わうことができる傑作だ。
まずは、身をゆだねてみる。一曲ごとに、あっちへ連れて行かれたり、こっちへ連れて来られたり。
波にさらわれたり、たゆたったり。
聴き終えてしばらくすると、不思議と心に何の渇きもなくなってしまっていることに気づく。
「きみがぼくに飲ませてくれた水は、音楽みたいだった」
と王子さまは「僕」にいう。
まさにそんな、音楽たち。
飲み干すように、ご堪能あれ。
苫野 一徳(哲学者)